<ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ>
ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ(1749~1832年)は,18世紀後半から19世紀前半に活動した,ドイツの作家である。
ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテは,1749年,ドイツ中西部の都市フランクフルトで,裕福で教養ある市民の家に生まれた。子どもの頃から厳しい教育を受けて学問や芸術を広く学び,10代後半からはライプツィヒ,ついでシュトラスブルク(ストラスブール)の大学で法学を学んだが,このシュトラスブルク滞在期に,豊かな自然との触れ合い,優れた文学者との交流,そして女性との情熱的な恋などに刺激されるなかで,文芸の道に目を開かれた。
20代前半にフランクフルトに戻って法律家の仕事を始めるが,それよりも創作活動に励んで詩や小説を発表していき,まもなく作家としての名声を確立した。20代後半には,ドイツ中部の小国であるヴァイマル公国の君主からの要請を受けてその都ヴァイマルに移ることになり,以後は政治家として行政実務に携わりながら,そのかたわらで創作活動に取り組んだ。1786年からは2年間のイタリア旅行を行い,南欧の自然や遺跡からインスピレーションを得ている。ヴァイマルに戻った後は,作家フリードリヒ・シラーとの交流や,フランス革命やナポレオン戦争による政治的激動などを体験をするなかで,自身の芸術をより発展させていった。
初期のゲーテはシュトゥルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)と呼ばれる文学上の思潮の旗手となって活動し,情熱的でエネルギーに満ちた作品をつくったが,そのような作品の代表としては『若きウェルテルの悩み』がある。これは,才気と感性にあふれる青年ウェルテルの恋とそれがもたらす悲劇を描いた作品で,若い人間のほとばしるような感情と衝動が豊かな言葉と自由な構成によって描かれている。
その後,現実社会で経験を積み,また古典や自然を学ぶなかで,ゲーテは人間と社会や自然との調和・統合を追求するドイツ古典主義文学と呼ばれる文学を築いて,独自の傑出した作品を生み出していった。その集大成といえる大作が,晩年に完成した戯曲『ファウスト』である。これは,人間の生命の本質を体験することを渇望するファウスト博士が悪魔メフィストフェレスと契約することでめくるめく人生の体験を行っていくという筋立ての作品で,そのなかでは人間の存在や人生の意義などの深く大きな問題が問われ探求されていく。
<ウェルテルとロッテ>
<ファウスト博士>
ゲーテは老年になっても旺盛な創作意欲は衰えることなく,精力的に制作活動を続けた。そして,晩年に『ファウスト』などの大作を完成させた後,82歳でその長い生涯を終えた。
彼は,自己の成長とともにその創作を発展させていき,人生の各段階ごとにかけがえのない作品を生み出し,そしてついには人間と世界,ドイツと外国,古代と近代を統合する高度な文学を実現するにいたった。こうして,ゲーテはドイツ文学をかつてない高みに引き上げて大成し,世界の文学史上においても並ぶもののない巨人となった。