エミール・ゾラ 『居酒屋』『ナナ』 

エミール・ゾラ

<エミール・ゾラ>

エミール・ゾラ(1840~1902年)は,19世紀後半から20世紀初めに活躍した,フランスの自然主義作家である。

エミール・ゾラは,1840年,フランスのパリで,イタリア人の父とフランス人の母との間に生まれた。少年時代を南フランスで過ごし,その後,パリに出て理科系の大学に入ることを目指したものの入学試験に失敗し,出版社に入社する。その後,勤務を行うかたわらで,詩や小説の創作を行うようになった。

19世紀後半のフランスでは,資本主義の発達を背景として社会・経済の高度な発展が起こる一方で,社会の矛盾が激しくなっていった。こうしたなかで,彼は当時さかんになっていた写実主義実証主義の影響を受けながら,自然科学の手法を文学に取り入れた自然主義の文学を創始した。

第二帝政末期の1867年に初の自然主義小説を発表し,第三共和政の時代に入った1870年代からは連続作品「ルーゴン・マッカール叢書」を刊行して本格的な活動を展開し,そのなかの『居酒屋』が大きな話題を呼び,作家としての地位を確立する。そして,1880年には『実験小説論』を発表して自然主義を理論的に示し,また若い芸術家たちを集めて共同での創作を試みるなど,自然主義文学の指導者として活躍した。

ゾラは,自然科学の領域における科学的・実証主義的な方法論を文学にも適用することを試み,自然主義文学を創始した。

彼は,自然主義を実践した作品として,全20作の小説からなる作品群「ルーゴン・マッカール叢書」を刊行した。この作品集は,フランス第二帝政下におけるある一族を題材にとり,自然科学の手法を援用しながら人々の観察と研究を行い,それを小説のかたちで発表したもので,あらゆる階層の人間の現実の生活を描くことで,当時の社会の実相を浮かび上がらせた作品である。特に,第7巻の『居酒屋』は下層の人々がアルコールに浸って堕落していく姿を描いたものとして,また第9巻の『ナナ』は,娼婦と男たちの関係を描いたものとして,世間で大きな評判となった。

また,彼は文学の世界だけではなく社会における実践的行動も行い,1890年代に軍人のドレフュス大尉のスパイ疑惑をめぐるドレフュス事件が社会の焦点となるなか,1898年に新聞紙上に大統領への公開質問状「私は弾劾する」を発表して,ドレフュスの擁護の論陣を張った。

こうして,ゾラは,資本主義と自然科学が発達していく近代社会のなかで,自然主義という新しい文学の方法論を打ち立てることになった。1880年代末頃から,フランスでは反動が起こって自然主義の思潮は後退していくが,自然主義は,ヨーロッパ,アメリカ,そして日本などの世界の文学に強力な影響を与えることになった。

1902年,ゾラは,自宅においてガス中毒のために死亡した。対立者による暗殺説もあるが,真相はいまだに不明である。ゾラは,ヒューマニズムにもとづいて,その作品においても行動においても勇敢に社会の問題に光を当て続け,世界の文学並びに現実社会において多大な影響を残した。

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