『シャクンタラー』 (カーリダーサ)

<ドゥシャンタ王とシャクンタラー>

『シャクンタラー』は,5世紀頃のインドで詩人・劇作家のカーリダーサによってつくられた戯曲である。

4世紀から5世紀のインドでは,北部においてグプタ朝が繁栄していた。グプタ朝では,王室の保護のもとで詩や劇がさかんになり,サンスクリット語によって書かれるサンスクリット文学が栄えた。歴代の国王は宮廷詩人を置くなど文芸を奨励したが,なかでも第3代国王チャンドラグプタ2世は積極的に文芸を振興したことで知られる。

作者カーリダーサは,このチャンドラグプタ2世時代の宮廷詩人だったとも言われる古代インドの代表的作家であり,そしてその戯曲『シャクンタラー』はサンスクリット文学の最高峰とされる作品である。

『シャクンタラー』は,仙人の娘シャクンタラーと王ドゥシャンタの,不思議な愛の物語である。

ある日,狩りの最中に一頭の鹿を追って山に入ったドゥシャンタ王は,そこで仙人の娘シャクンタラーと出会い,恋に落ちた。二人は婚約を結び,王は誓いの印としてシャクンタラーに指輪を贈った後,国を治めるために彼女を残して都に戻った。

残されたシャクンタラーは,愛する王のことばかりを考えて過ごしていたが,もの思いにふけっていたことから,訪ねてきたある聖者に対して失礼な対応をしてしまい,その聖者から王がシャクンタラーのことを忘れてしまう呪いをかけられた。シャクンタラーは,王の記憶を取り戻す手がかりとして指輪を持って国王へ会いに向かうが,その指輪を川を渡る際になくしてしまった。王はシャクンタラーを思い出すことができるのか,そして二人は再び結ばれることができるのか――この物語では,こうした二人の愛や試練が描かれる。

この作品は,まず物語の構造,つまりストーリーの展開がおもしろく,関心を引きつけるものになっている。そして,物語のなかでは,人間の愛と勇敢さが主題として中央で力強く表現され,その背景では神々の偉大さや自然の美しさも描写されている。こうして,『シャクンタラー』は,作品全体にわたって輝くような魅力的な物語となっている。

それにしても,古い時代のインドで,このようなファンタジー性を持つラブストーリーがつくられていたということには,何だか驚かされてしまう。古代の人々も,現代の人間と同じように,愛や冒険のドラマを聞いて心躍らせてきたのだなと感じる。『シャクンタラー』は,現在もこれからも,見る者の心を楽しませ,そして鑑賞後には爽快さと幸福感を残してくれるだろう。

<ページ上部へ>     <文学トップへ>