<アルノルフィニ夫妻の肖像>
ヤン・ファン・エイク(ヤン・ファン・アイク)(14世紀末~1441年)は,中世後期の15世紀にベルギーのフランドル地方で活躍した画家である。
ヤン・ファン・エイクは,中世末のベルギーで活躍した画家である。誕生や幼少期についての記録は残されていないが,1390年頃にベルギーで画家の多い家系に生まれたと考えられ,成長して画家として活動するようになった。兄のフーベルト・ファン・エイクも優れた画家として知られている。
1425年頃には現在のベルギーやオランダの一帯にあたるネーデルラントを支配していたブルゴーニュ公の宮廷画家となり,ブルッヘ(ブリュージュ)やヘント(ガン)などフランドル地方の都市を拠点として活動を行った。こうしてフランドル地方で創作活動を行うなかで,彼は油絵の技法を確立して色彩や質感の精密な表現を可能にし,その新しい表現手法によって優れた宗教画や肖像画を残した。
ヤン・ファン・エイクは,中世ヨーロッパの美術の特色である象徴的表現を重視する傾向を引き継ぎながらも,それと同時に近代的な精密で写実的な描写を実現することによって独自の作風を切り拓いた。
彼の特異な作風と傑出した才能を示す代表作としては,フランドルのある夫妻を描いた「アルノルフィニ夫妻の肖像」がある。この肖像画では,夫妻の衣服,床の木目,奥の鏡など,あらゆるものの細部まで恐ろしいほど精密に描写されているが,その一方で,この絵画のなかには,中央右上の彫像,鏡の周囲の装飾,左端の果実など,象徴的な意味をもつ物体が数多く描きこまれていることが注目される。
ヤン・ファン・エイクは,中世の象徴的な表現を継承しながらも近代的な写実的な手法を確立して,フランドル画派の創始者となり,また近代西洋画に対して決定的な影響を与えた。
こうして,ヤン・ファン・エイクは,中世の最後と近代の幕開けを飾る作品を残し,北方ルネサンスの先駆者となった。