『ガルガンチュアとパンタグリュエル』(フランソワ・ラブレー) 

ガルガンチュア

『ガルガンチュアとパンタグリュエル』は,16世紀のフランスで,作家フランソワ・ラブレーによって書かれた物語である。

著者のフランソワ・ラブレー(1494頃~1553頃)は,フランス中部アンドル・エ・ロワール県の町シノン近郊の村で,弁護士の家に生まれた。修道士となり,各地の修道院を転々としたが,その途上で医学を学び医師にもなっている。こうして修道士や医師として活動するかたわら,ギリシアやローマの古典に強い興味を抱き,人文学者としてその研究を行った。

そして,1530年代から50年代にかけて,『ガルガンチュアとパンタグリュエル』の物語を何度かに分けて発表していく。

この『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語』は,巨人族のガルガンチュアとその息子パンタグリュエルの親子2代にわたる物語である。

世界の文学史上でも,これほど荒唐無稽で型破りな作品はめったにないだろう。風紀上,高校世界史の教科書にはとても引用できないような代物である。この物語では,ヨーロッパの騎士道物語の体裁にしたがって,ガルガンチュアたちが生まれ,育ち,活躍する姿が描かれているが,問題はその内容である。

まずはガルガンチュアの生誕。母ガウガメルは,妊娠して出産が近い時期に大食いをして下痢になり,強力な下痢止めを飲んだところ体の穴が収縮して胎児が下から出られなくなったので,胎児は子宮から上に飛び出し,そこから静脈に入って体を上り,そして母の耳から外に出て,こうしてガルガンチュアは誕生した。

この後は,酒を飲んでいたずらを繰り返しながらすくすくと育ち,尻の拭き方についての研究を披露すると父親から感心されて教育を受けることになり,体を動かし物語を楽しみながら学んですこやかに成長し,そして,訪れた町で放尿して町中の住民を流し,戦争では引っこ抜いた木で敵の城を叩きつぶすなど,冒険を繰り広げていく。

こういった具合に,終始,下品で破天荒なストーリーが,怒涛の勢いで語られていく。そして,因習に凝り固まった修道士や難解な理屈ばかりを教える教師たちの滑稽さが描かれる一方で,ガルガンチュアたちは自由に人生を楽しみ痛快な活躍を見せる。

この『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語』については,後世の歴史学者や文学者から「架空の物語を描くことで社会を風刺し批判することを試みた」とか,「宗教改革の進行する当時のヨーロッパにおける宗教観を反映している」などと評されているが,しかし,そのような学問的観点からの批評を行おうとすること自体,とんでもない的外れであるに違いない。ラブレーが表現しようとしたのは,小難しい理屈や因習をはねのけて,人生をとことん楽しみ謳歌することなのだから。

難しく考えず,ときには大笑いして,ときには顔をしかめて,最後に「なんてくだらないんだ!」と本を放り投げるのが,この作品の正しい鑑賞法だろう。

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