エウリピデス 

<エウリピデス>

エウリピデス(前485年頃~前406年頃)は,古代ギリシアのアテネの悲劇作家で,ギリシアの三大悲劇詩人の一人に数えられる劇作家である。

エウリピデスは,古代ギリシアのペルシア戦争からペロポネソス戦争にかけての時期,すなわちアテネが黄金時代を迎え,そして衰退期に入り始める時代を生きた作家である。

彼は,前480年代頃にアテネかその近郊において生まれた。青年時代には哲学者やソフィストたちに師事して学び,当時アテネで花開いていた新しい思想の影響を強く受ける。その後,劇作家の道に進むと,前455年に初の作品を発表し,以後はほとんどアテネから出ることなく創作に専念して,『メディア』などの多くの作品を制作した。最晩年にはギリシア北部のマケドニアの宮廷から招かれてその地へ向かい,そこで客死した。

彼はきわめて内向的な性格で,人と関わることを好まなかったという。結婚は二度したが,いずれも妻が不倫をするなど家庭生活には恵まれなかった。

エウリピデスは,それまでの伝統にこだわることなく,独創的な形式と内容をもつ新たな悲劇を生み出し,ギリシアの悲劇に大きな変革をもたらした。

彼は,形式面では,プロローグ(前口上)を多用したり,「デウス・エクス・マキナ」(「機械仕掛けの神」)と呼ばれる仕組みを活用するなど,新しい演出の手法を大胆に導入した。

そして内容面では,神話に題材をとりながらも,人間の心理に注目し,それを中心として劇をつくりあげたことが特徴である。彼の悲劇においては,人間の心の動きに焦点が当てられ,登場人物たちが葛藤や苦悩のなかで行動を迫られる姿が生々しく描かれていく。

エウリピデスの悲劇は,斬新であったがゆえに必ずしも広い層からは評価されず,同時代に活躍したソフォクレスと比べると競演での優勝回数は少なく,また批判も多く受けた。

しかし,彼の人間の心理に注目するスタイルは,神々よりも人間そのものを追求する,新たな演劇の可能性を切り拓いた。こうして,エウリピデスは,いわば人間中心の演劇の先駆者となり,その作品は近代にいたるまで後世の演劇にも影響を与え続けることになった。

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