ピサ大聖堂 

ピサ大聖堂

<ピサの大聖堂と斜塔>

ピサ大聖堂は,イタリア中部トスカナ州の都市ピサに存在する,ロマネスク様式のキリスト教の聖堂である。

イタリア中部の西岸に位置し地中海に面する海港都市ピサは,11世紀頃からコムーネ(自治都市)として地中海貿易で繁栄したが,こうした経済的繁栄を背景としてピサで聖堂の建設が計画されることになった。聖堂は11世紀半ばに着工され,12世紀に完成した。続いて,聖堂の周囲に洗礼堂や鐘楼(鐘を中におさめる塔)が建設されていく。この聖堂の傍らにそびえる鐘楼が,有名な「ピサの斜塔」である。

このピサ大聖堂は,ロマネスク様式の代表として知られる。ロマネスク様式は,11世紀から12世紀の西ヨーロッパで広まった建築などの美術様式である。「ロマネスク」とはもともと「ローマ風の」という意味で,ローマ時代の建築の影響が強く見られることからこのように呼ばれる。

ロマネスク様式においては,聖堂内部の広間は,ローマ建築に由来するバシリカ様式が採用された。バシリカ様式は,内部の広間が,真上から見てラテン十字型(縦長の十字)の形状になっている構造である。

ロマネスク様式のもう一つの特徴は,半円アーチが繰り返し使用されていることで,廊下の天井やドームにおいて半円アーチの形状が使用されている。

こうしたロマネスク様式の建築では,石造の屋根の大きな重量を壁面が支えなければいけないため,建物の高さは抑えられて低くなり,また壁が厚く窓が少なくなる。この結果,ロマネスク様式の聖堂は,重厚感を持ち,内部は薄暗くなる。

11世紀から12世紀の西ヨーロッパでは,キリスト教信仰の高揚を背景に教会の建設がさかんになり,イタリアやフランスを中心としてロマネスク様式の聖堂が各地に建設された。信者たちはピサの大聖堂を含む各地の教会を訪れ,薄暗さや壁面の彫刻によって演出された重く深みのある空間のなかで,神への祈りを捧げたのだろう。

ピサの大聖堂の外観は,左右対称性を持ち,また半円アーチの形状やモジュール(基準寸法)が繰り返されていることによって,非常に整然とした印象を見る者に与える。外壁の白色と周囲の芝の黄緑色のせいかロマネスク様式にしてはあまり重さは感じないが,しかしやはり格調高い感じをしっかりと保っている。

それにしても,これほど安定感を持った聖堂の隣にある塔が,傾いて斜めになってしまったというのは,歴史のおもしろいところだと思う。聖堂は落ち着きと安心を与え,斜塔は変化とアクセントをつけて,お互いを引き立てながら,われわれの目と心を楽しませてくれる。

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